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農の現場で考える2023(その3)~農家にとっての稲作

 今回は、お米とともに毎月お届けしている『やぎ農園田んぼだより2023年2月号』からの抜粋を以下に掲載して、農家にとっての稲づくりの大切さについて考えたいと思います。


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本当にお米はいらなくなったのか?

 先月号で、全国の稲作経営体の昨年の農業所得(年収)がわが家と同規模の平均値で1万円しかないという信じられないような数字を書きました。平均値ですから、大面積を耕作する法人よりも圧倒的に数の多い個人農家の多くが赤字になっているということです。その原因は、米価が上がらないばかりか、化学肥料代がこの2年間で約1,5倍に値上がりしていることが大きく影響しているようです。このままでは稲作農家はどんどんやめていくことでしょう。このような現実がある中で、幸いなことに、わが家は耕作する田んぼが増えたことで稲作中心の経営に変えてみなさまにお米を毎月お届けすることによって、安定した暮らしができるようになってきました。

 米価が上がらないのは、米の需要が減って生産過剰になっているからだとして、主食用米の生産から飼料用米や米粉用米、麦や大豆への転換を図る動きが最近続いてきました。でも、わが家のこの2年間を振り返ると、何か違うのではないかと思わざるを得ません。

 2021年春から預かる田んぼが急に増え、収穫したお米を販売しきれるのだろうかという不安を抱えていました。ところが、少しずつお問い合わせが増えていき、有難いことにほぼ年間予約で一杯になりました。中には「おいしいので思っていた以上に食べてしまいまうため、量を増やしてください」という声も何度かいただきました。人口減少が続き食生活も変化しているのだから米の需要が減るのは当然だと言われていますが、わが家のような手をかけたお米を求めている人がたくさんいることを肌で感じています。

 

たくさん穫れればいいという時代の終わり

 第2次世界大戦後の日本は、米生産の3分の1を担っていた植民地を失ったこともあって極度の食糧難となり、1960年代前半まで米の輸入国でした。そのような時代には、同じ面積で少しでも収量を高めることが求められ、そのための技術を競いあうということも盛んにおこなわれていました。

 その後1970年に減反政策が始まると、米を作れない田んぼが増えたので、これまた少ない田んぼで余計に穫れるようにという意識が定着したのではないかと思います。かつては農家の耕作面積がどんどん増えることなどなく、毎年同じ面積をつくり続けることが当たり前だったからです。そして最近は、米の単価が安くなったから、これまた少しでもたくさん取らなければ収入にならないからと、収量をあげることが意識されてきました。

 でも、化学肥料の高騰によって、いよいよそのような「たくさん穫れることが善」だという時代は終わりだと感じています。肥料の元はほとんど輸入に頼っていたのですから、米余りという現象は「砂上の楼閣」だったということでしょう。食料自給を根本から考え直し、有機農業を前提とした農業・食料政策に変わってほしいものです。

 

農家にとっての米づくり

 私が就農した1997年ごろは、どこの農家(主なしごとは大工だったり木工所だったりしても)でも自給用のお米だけは作るのが当たり前でした。集落には共同で使う精米所があり、皆が当番を務めて管理していました。それが今では、自給米さえつくっていない農家が多くなり、すっかり時代が変わりました。

 でも、自分の食べるお米をしっかり確保できるというだけで、収入の多少にかかわらず暮らしの土台が出来上がるので、とても大切です。お米は長期間貯蔵することができて、1年を通して出荷することができるので、わが家のように定期的に各ご家庭にお届けする形をとれば、ささやかながら食卓を支えているという自覚が生まれ、大切に食べて下さっている方々への感謝の気持ちと日々の農作業についての誇りも感じることができるものです。これから就農したいと考えている人たちには、そんな農家の醍醐味を知ってほしいと思います。

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 わが家の田んぼでは、春の苗づくり、くろぬり作業から、田植え後の補植、除草、稲刈り、はざ掛け、脱穀、ワラと竹の片づけまで、やぎ農園パートナーとして登録していただいたたくさんの人たちの参加により、にぎやかに手間をかけて稲づくりをしています。隣の田んぼでは大型のトラクターやコンバインが動いているわけですが。

 こうしたやり方は、一見効率が悪いように思われているに違いないのですが、農家の経営という視点から見ると逆なのです。効率よくたくさんお米がとれたとしても米価が低いうえに経費がかさみ、農家の手取りは平均的な規模でもほとんどなくなってしまいます。だから、農家は自分の子どもたちに農業を継いでほしいと思わないし、行政も稲作は無理だと勧めることができなくなっています。

 しかし、わが家のように、大きな最新の機械を使わず、一昔前の方法で、なるべく自然の力を利用するならば、大きな経費を掛けずに済み、しかも一般の価格よりもずっと高くても(一般の米価が異常に安くされているだけなのですが)欲しい方からの問い合わせや注文は増えていく現状なので、食べものとしてのお米と一緒にしっかりと収入も得ることができます。このような方法を選べば、新規就農者でも多額の資金をかけずに稲作に取り組むことができ、安定収入を得ることができるのです。

 わが家には、千葉県内から2、3時間もかけてお米を求めに訪ねてくる方が何人もいらっしゃるので、有機稲作がますます求められる可能性を肌で感じています。でも、周囲の農家が有機稲作に転換したり、有機稲作を始める新規就農者が見られないのは本当にもったいないと思います。わが家では、新規就農を志す人たちには、稲作を暮らしの土台にするようにと伝えています。


*写真は、わが家の倉庫の様子です。籾を入れた袋がびっしり積んであります。常温で貯蔵し、これをその都度籾摺りします。

 

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