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農の現場で考える2023(その5)~日本の未来と地域の農業

今後進む日本の小国化

 先日、千葉県が主催したある研修会で講師の久松達央さん(茨城県・株式会社久松農園代表取締役、有機野菜の生産販売農家)のお話を夫婦で聴きに行きました。「淘汰の時代の農業を考える」という演題で、今世界がどう変わりつつあるか、未来の日本と農業はどうなってゆくのかという大きなテーマ抜きにはこれからの私たちの進む方向は見えないという興味深い時間でした。久松さんは、大学で経済学を専攻し大手企業に就職しましたが辞め、1998年に茨城県の農業法人で研修を受けた後、1999年に就農しました。

 いま世界各国の力関係が大きく変化しています。それは人口の変化とも大きく関わっています。今年インドが中国を超えて世界一の人口大国になったようです。そのアジアも2055年にはピークを迎えますが、アフリカは増え続けます。2017年時点で中国、インド、アメリカ、インドネシア、パキスタン、ブラジル…となっていた各国の人口順位は、2100年にはインド、ナイジェリア、中国、アメリカ、パキスタン、コンゴ民主共和国・・・となるそうで、日本はというと、2017年には10位だったものが2100年には38位にまで落ちてしまうそうです。日本の人口は、2008年の1億2,808万人を頂点として、2100年には3,795万人~6,485万人程度と半分以下にまで急速に減ると予測されているというのです。

 そうなると、貿易相手国として注目されないほどの小国になり、現在でもいろいろなものが他国に買い負けるという状況になっているが、この先はさらにお金も人も物も日本には来なくなってしまうだろうと久松さんは指摘しました。

 2023年11月19日付の日本農業新聞によると、ドル換算の名目GDP(国内総生産)はこれまでアメリカ、中国に次ぐ世界第3位でしたが、2023年にはドイツに抜かれ、2026年にはインドにも抜かれて5位にまで順位が下がるというのが、IMF(国際通貨基金)が10月に発表した世界経済見通しだそうです。経済大国としての地位は、今後どんどん低下してゆくのでしょう。

 日本は人口もどんどん減り、経済的にも縮小してゆき、一方で世界では食料や資源の争奪が次々に起こるので、あらゆるものが海外から自由に手に入れることができるという前提は考えられなくなります。また、人口もどんどん減ってゆくのですから、大量消費を前提とした産業も縮小せざるを得ません。人口が減れば、農業生産量も減ってゆくこと自体は自然だと思います。それでも、現在進んでいる農業人口の急速な減少は、一部の都市への人口集中と並行して起きているうえに、食料自給率が38%しかないが輸入食品は豊富にあるという前提があるため、食料輸入が自由にならなくなる事態になったときに、対応しきれるとは思えません。小国になればなおさら食料自給なくしては成り立たなくなるはずです。

 

喜びを見いだせるかどうかが大切

 先日、地区の「担い手」農家の集まりがありました。地区内では、農地を持っていても自分で耕作せず、「担い手」に預けている農家も少なくありません。「担い手」とは、5年、10年先も農地を増やしたり預かる意思がはっきりしている農家のことで、わが家も地区の担い手の一戸となっています。長年地域の農地を守ってきた先輩方も、亡くなったり、離農や縮小のため他の人が受け持つことが最近どんどん進んでいます。そのような現状に追い打ちをかけるように、国は耕作面積、雇用、所得を増やし成長する大規模農家を補助金などで優遇し、農地の集積を目標とするように政策的に誘導しています。今回の会議はそのための話し合いでした。

 新しくできた法律を根拠に国が示した「目標地図」の例示を見て驚きました。地区の「担い手」に農地をブロック化して分割する、まるで占領地図のような案だったからです。確かに大規模農家にとっては、農地を大区画化することも可能となって効率を良くすることにはなるかもしれません。でも、そのように大規模化を前提として農地の移動を簡単に決めてしまったら、この先大きな資本を投じて大規模にやれる人しか残れません。大規模だからこの先もずっと農業を続けていけるとは誰も保証できないのが現状です。さらに、時代とともに価値観が変わったり食糧難となったりして、農地所有者の孫やひ孫世代の人たちが農村に戻ってくる可能性だって十分あります。新規就農者を含め、未来にわたって小規模であってもこの地区の田を耕すことができる条件を守っていくことが大切だと私は考え、国の方針に反対意見を述べました。

 この会議で残念だったのは、担い手の皆さんの言葉から、喜びも希望も感じられなかったことです。最近耕作面積が急増している地区の若手農家も「現状について楽しいかと聞かれれば、そうとは言えない…」と口を濁していました。これは残念なことです。

 

農業は未来をつくるしごとと暮らし

 農業は本来暮らしと一体のもの。それを無理に産業として扱おうとするから、農業に携わる人たちの喜びを奪うことになるのだと思います。人のいのちの源である食べものの生産に携わる人たちが、お金の出入りに縛られて、この仕事を楽しいと感じられない状況では、新たにやりたいと思っている人たちに勧められません。残念なことです。その一方で、農業に喜びを見いだせる人は、他人にもその暮らしを勧めたくなります。わが家もそうです。わが家はこれからも、暮らしと切り離せない有機農業の喜びを大事にしてここ南房総の良さと農業の大切さを感じる人の輪をひろげ、少しでも希望をつくりだしていきたいと思います。農業は、種を播き、作物の生長と未来の収穫を想像しながら過ごす暮らしです。常に視線は未来へ向けられています。未来に希望をつくりだすこと、見出すことが、農業本来の姿だと思うのです。

 先日、地元の中学校で1年生の生徒たちに有機農業のしごとと南房総の良さについてお話しをしてほしいとの依頼を受けました。その当日は、わが家の有機農業の話だけでなく、あなたたちの未来のお話だとして、これからの世界の変化や日本の農業の現状と求められていることを伝えたうえで、これからますます大切になってゆく農業という話をしました。そして、「皆さんはこれから進学や就職で南房総を離れることも多いと思います。でも、都会で暮らしてみて、生まれ育った南房総の良さに気づいたらぜひ戻ってきて、南房総の自然を生かした仕事をしてください。私もその時まで元気に働くようにします」ということばで締めくくりました。

 最近では研修希望者が何人も訪ねてくるようになり、来春からは新たな研修生を迎えることになります。来年からは、そのような有機農業で暮らしたいと考えている若い人たちが少しでも不安少なく就農できる環境を整える仕事もしていきたいと考えています。そのことによって、この地域でますます増えている耕作する人がいなくなった農地を有機農業で活かしていく道筋をつくっていきたいのです。

 これまで私は、ひたすらプレーヤーとして田畑に張り付くように仕事をしてきましたが、このままでは、自分たちができなくなったらそれで終わってします。そうならないように、その後を少しずつ引き継いでくれる人たちの活躍の場をつくりだしていくプレーヤー兼プロデューサーのようなしごとが、これからの私の役割ではないかと考えはじめ、有機農家になりたい人も本来のたべものを求める人も集まってくるような地域にするためにはどのような仕組みをつくりだしていったらいいのかと、勉強しながら検討しているところです。本当に、若い人がこの土地で生き生きと暮らせる環境をつくりたいものだと思います。

 


 今年もやぎ農園ブログをお読みいただきありがとうございました。わが家はますますいろいろな方々との交流が広がり、もっといい方向に進んでいくに違いないという確信をもって2023年を終えることができます。来年もどうぞよろしくお願いいたします。


*写真は、11月に種を播いた大麦・小麦畑です。寒い冬にも生長を続け、春の彼岸を過ぎると急速に元気になっていきます。収穫は来年の5月末~6月初めごろ。未来を見つめて種を播く百姓の姿を表した畑の様子です。




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