研修生募集・新規就農を考えている方へ
はじめに
私たちは新規就農者として、こだわりを持った百姓になることと安定した暮らしを目指して試行錯誤してきました。その目標はある程度までは達成できましたが、いまこの地域では新たな課題が生まれつつあります。それは、地域の農業を中心的に担っていた先輩たちが、年齢的に、体力的に限界に近づいてきたということです。そのため、耕作されない農地が今後どんどん増えていく恐れがあります。また労力を融通しあったり、共同作業で農道や用排水路の維持をするなど、農村は多くの農家の関わりと連携がなくては成り立たないのですが、それが困難になっていく恐れがあります。
機械化の時代とは言っても、百姓の技は一朝一夕に身に付くものではないですし、経験豊富な先輩たちから学ぶことなくがむしゃらに働けば何とかなるというものではありません。経験豊富な先輩たちがまだ元気なうちに農村に定住し、百姓をめざしたいという若者が増えることを願っています。
このような現状を変えるための努力を少しでもしたいと考え、わが家は研修生を積極的に受け入れることにしました。見方を変えれば、今後農地の確保はしやすくなっていくでしょうし、特に若い新規就農者は、地域に溶け込んでいくことを心がければ、歓迎され、期待される存在になる可能性があります。食べものの安全性や都市生活者としての暮らし、日々の労働に疑問や不安を抱いているあなた、農村での百姓暮らしを考えてみてはいかがでしょうか。
新規就農者としての私
実は私も、30歳まで都市でしか暮らしたことがなく、しかも田舎に親戚はありませんでした。ですから、三芳村での暮らしは全く手探りで始まりました。はじめのうちに困ったことは、方言と各家を指す屋号がよくわからなくて、話しかけられても返事に困ったり、世間話に入っていけなかったことです。また、田んぼの見回りに行くたびに、世間話好きな地主のおばあさんの話を毎日のように2時間も聞くという今となっては懐かしい苦労もありました。そんな私でしたが、地域の行事や作業、集まりには積極的に参加していたため、5年目のある日、後継者のいない農家の養子に入らないかとのお話を、その親戚の方からいただきました。こうして今、八木家の跡取りとして暮らしているわけです。あなたは、百姓のこともわからないのに、農村の暮らしでもいろいろ大変そうだと不安を感じるかもしれません。でも、ここの人たちはよそ者に対して冷たいとか仲間はずれにするということはありませんし、新規就農者として出来のよくなかった私がこうして26年間暮らしてきたのですから、ゆるぎない気持ちを持ち続けていれば何とかなるものです。
生きるための農業と稼ぐための農業
それでも、新規就農するときに考えておかなければならないことがあります。住居費、食費など生活に必要な出費は減るものの、都市で暮らしていた時とは比べられないほど収入が減ります。それに対し、どのように対処していくかで農業のやり方も変わることになるのです。
私も妻も都市生活者として生まれ育ったので、いつも「買う」ことは当たり前でした。そのような消費行動はしばらく抜けなかったように思います。もちろん、百姓の道具や機械、資材、種、自動車や機械の燃料など必要経費も結構かかります。ですから、お金はあまり入ってこないのにお金がどんどん出ていくことになるのです。そこでわが家で決めた方針は、なるべくお金を使わないように自給できる食べものを増やしていこう、自分たちでできることを増やしていこうということでした。麦や大豆、ゴマもしっかりつくったり、野菜の種類を増やしていったり、中古の機械を買ったりもらったりしたうえ機械の修理方法を覚えて自分で直すといったことをすると、支出(マイナス)が減少(マイナス)します。それは結局その分収入(プラス)が増えたのと同じことになります。このようにして、自給を広げてゆき、支出を抑えるというのが一つの方法です。もう一つは、しっかりお金を稼ぐ農業を目指すという方法です。この場合には、ある程度品目を絞り込んで商品としての価値の高いものをたくさんつくることになるでしょうが、それなりの資金も必要になるし、自らの食生活に必要なものの多くは買うことになるでしょう。
多くお金が入ってくる方を選ぶのか、お金をなるべく使わない方を選ぶのかは、人によって違うと思います。ただ、わが家の場合は、肥料をたくさんやる栽培方法はとらないと決めていましたので、野菜の収穫量はそれほど多くないことが前提です。ですから、お金をなるべく使わない方法を選んだのです。結果的にレンコンやゴマのようなものにまで栽培する品目が増えて出荷できる品目を増やすことにもなり、経営的にもいい方向へと向かいました。
ぜひやってほしい有機の米づくり
農家にとって、日々の暮らしに必要な米が手元にあるのとないのとでは、安心感が違います。かつてはどこの家でも、自家用の米だけはつくっていたものです。しかし最近は、米価があまりにも安くなってきたことと、様々な経費が掛かる仕組みになってきたため状況が変わってきました。お金と手間暇かけて作るくらいなら買って食べたほうがいいという農家も出てきました。千葉県が新規就農者向けに出しているパンフレットでも稲作は収益性がとても低い作目とされていて、多額の資金を投じて大規模化を図るしかないと考えてしまうことでしょう。これでは、新規就農する人が米づくりをしようとする気持ちも砕かれてしまいます。
しかし、わが家ではお米の販売は大きな収入源になっていて、たんぼの面積が20a→50a→80a→3haと増えていくごとに生活は安定してきました。それはなぜかというと、中古の機械を使い、はざ掛けの稲作りをし、そしてわが家の決めた価格で独自の販売をしているからです。自分たちの食べるお米をつくりながら、収入もしっかり得ることができるのです。
最近では、わが家のような個人農家にもお米についての問い合わせが次々に来てお応えしきれなくなってきました。これからも農薬や化学や肥料を使わず丁寧に育てて収穫したお米を求める人たちは増えていくに違いないという手応えを感じています。自ら納得のいく仕事をして、それを求める人たちとつながれば、稲作は農業の柱になります。わが家の場合、米は毎月申し込まれた量ずつ直前に籾摺り・精米したものをお届けしています。こうして、一年を通して食卓を介してつながりを保つようにしています。その際に大事なことは、「おいしい」と言っていただけるお米をつくることです。新規就農を考えている方は、暮らしの質という点でも、収入の確保という点でも稲作をしていくことをお勧めします。
(わが家の「はざ掛け」による稲作の特徴についてはこちらをご覧ください。)
(有機農業ということばについては、こちらもお読みください。)
研修生の受け入れについて
ここまで書いてきたように、わが家の基本方針は、生きるための農業、普通に暮らせる農業を大切にするということです。南房総でそのような農業を目指したい方を研修生として受け入れます。わが家の受け入れ条件は下記の通りです。
◆研修後、南房総市内で農業を始める意思がしっかりしていること。専業・兼業・半農半Xは問いません。
◆現在は預かる地域の田んぼが増えたため研修は稲作が中心になります。
その他、季節ごとの野菜、大豆やゴマなどの作物を育て、農産加工もやります。
◆研修期間は、1年間とします。研修開始時期は相談の上決めます。
◆18歳から45歳までの男女
◆普通免許を所持していること。
◆住み込みではありません(アパート、借家または南房総市の新規就農支援施設を利用してください)。
◆研修は週3~5日、8時間を基本に相談のうえ決めます。1日の作業時間は、季節や作業内容によって変動します。
◆やぎ農園で生産した米、野菜などの食材を支給します。
◆南房総市新規就農者支援事業補助金交付の申請をして認定を受けた方には、南房総市から研修期間中毎月5万円が支給されます。やぎ農園は、この制度を利用できる研修機関として認定を受けています。この制度については、南房総市地域資源再生課へお問い合わせください。
これらの条件を理解したうえで研修を受けてみたいという方は、まずは電話でご相談ください。儲かる農業を目指す方は、ほかの研修先を探してください。研修終了後に、この地で就農しようとする意欲のある方には、サポートを続けていきます。