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ゲノム編集技術は、遺伝子組み換え技術ではない?


今日8月8日付の日本農業新聞一面に掲載された「環境省 ゲノム編集「一部切り取り」 GM技術該当せず」という記事に驚きました。ゲノム編集は、まだ聞きなれない言葉ですが、これまでの遺伝子組み換えとは別の技術として開発されました。遺伝子組み換えは、ある生物に他の生物の遺伝子を組み込む技術で、代表的なものは、土中にいるバチルス・チューリンゲンシス(Bt)という細菌の遺伝子を組み込んだ殺虫性のBtトウモロコシです。一方、ゲノム編集は、その生物が持っている遺伝子の一部を壊すことで目標とする性質を持たせる技術です。例えば、筋肉の成長を抑える遺伝子を壊すことで、成長が早く筋肉質の豚を生み出します。米国では、すでにゲノム編集技術を使った除草剤耐性のナタネが商品化されているそうです。

ゲノム編集は、遺伝子組み換えよりも簡単に使える技術だといわれますが、問題がありました。それはオフターゲット作用と呼ばれるものです。ゲノム編集では、何十億という遺伝子情報を持つDNAを切断します。その時に、目的とする遺伝子以外のものまで壊してしまう場合があるのです。その生物にとって大事な遺伝情報を壊してしまう可能性もある、それがオフターゲット作用です。さらに、この遺伝子を壊す仕組みを遺伝させ、世代を超えて同じ遺伝子を壊し続けるという遺伝子ドライブという技術まで開発されています。例えば、雌になる遺伝子を壊すような仕組みを持たせた蚊を自然界に放つと、野生の蚊と交雑しても雄しか生まれません。やがて絶滅してしまいます。ですから、遺伝子組み換え生物と同様に、生物多様性に大きな影響を与える可能性があるわけです。

ところが、環境省が8月7日に発表した見解は、「ゲノム編集は遺伝子組み換え技術には該当しない」というものでした。遺伝子組み換え作物の場合、輸入・流通・栽培について、遺伝子組換え生物等を使用等する際の規制措置を講じることで、生物多様性への悪影響の未然防止等を図るためのカルタヘナ法(生物多様性条約カルタヘナ議定書に基づくもの)の規制を受け、事前審査やの手続きが必要になります。しかし、ゲノム編集が遺伝子組み換え技術に該当しないとすることは、このような法規制が適用されないことになります。EU(欧州連合)の欧州司法裁判所は今年7月に、「ゲノム編集」で開発した作物は遺伝子組み換え作物の規制の対象にすべきだという判断をしているというのにです。

このような遺伝子操作技術が生物に何をもたらすのか、まだはっきりしていません。もしかしたら、重大な問題が起きるかもしれないし、そうなったら自然界での遺伝子汚染を収拾することは不可能に近いでしょう。人類にとって大きな脅威となる生物が生まれる可能性さえあります。すでに米国では、猛毒を持つ蚊を生物兵器に応用するなどの軍事利用についての研究も進められているそうです。今回の環境省の措置は、ゲノム編集の産業利用を進めやすくすることが狙いのようです。しかし、ゲノム編集も生物の遺伝子を操作する技術に変わりはありません。遺伝子組み換えとともに、今後の動きに注目していく必要があります。


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