百姓の役割、自然との関わり


今年の秋の南房総は災害続きでした。9月には台風15号による暴風で建物を中心とした被害。10月には台風19号がもたらした塩害と台風21号のもたらした集中豪雨による洪水と河川の氾濫。わが家でも大豆や秋野菜に大きな被害がありました。7月の日照不足による夏野菜などの生育不良も含めて本当にがっかりすることが続きます。昔だったら、おそらく飢饉の年だったに違いありません。それでも、このように自然に左右されるのが人間の本来の姿であって、自然の猛威の前に人間はなすすべもないと畏れることを忘れてはいけないと思いました。

農業の原点

農業とは何か?百姓の役割は何か?そんな根本的な問いかけの答えを、私はかつて愛知県新城市の有機農家・松沢政満さんから教えていただきました。松沢さんは、哲学する百姓といってもいいほど農業と人や社会、環境、地球との関係を深く考え、「小さい循環農業」を自らの農園で実践されています。松沢さんからは、「農業は太陽エネルギーを人間が生きるためのエネルギーに変換するしごと。植物を育てているのは太陽エネルギーであって、農家はただ植物が育ちやすいようにお手伝いをしているだけだ」という、一般的な認識とは違った見方を教えていただきました。

 植物は光合成という作用を行って自らのからだと栄養をつくり出し、人間はそれを食べ物としていただいているわけですが、太陽エネルギーがなくては人が何をしても植物は育たないということは、今年の7月に実感しました。ここ南房総では、1ヶ月の間に晴れた日は1日ほどという、極端に日照時間の少ない月となり、日照りを好むゴマはほとんど生長が進まず、落花生は開花期が1ヶ月も遅れました。ですから、本当に植物は太陽エネルギーが育てていることがよくわかりました。

食べ物を得る効率

一般には農業の効率は、同じ時間にどれだけたくさんの作業をこなせるか、あるいは一人でどれだけの作業をこなせるか、という製造業の世界でいう効率で測られますが、エネルギー収支という視点から見ると、全く違うのです。これも松沢さんから頂いた資料に依りますが、メキシコの伝統的なトウモロコシの生産では人間の労働だけなので、投入したエネルギーを1とした場合に得られる食物エネルギーは12、つまり12倍になるそうです。一方、日本の一般的な水稲の場合には0.4~1.1しか得られないというのです(1979年の資料)。機械や燃料、資材や農薬・肥料がたくさん使われるからです。それらの製造や使用に要するエネルギーも含めると、むしろ得られるエネルギーよりも多くのエネルギーを消費していることになります。

 人間の労働を中心にした農業ならば、太陽エネルギーという人間が直接栄養にできないものを植物の生長を通して収穫物として数倍以上のエネルギーを得ることができるわけで、伝統的な農業が長く続けられてきたわけはそこにあるのだと思います。機械や肥料をたくさん使う、エネルギー収支がマイナスになるような農業は、一時的には隆盛になったとしても長く続けることはできないでしょう。

 今は地球環境が意識され「持続可能性」を高めることが世界的な課題になってきました。国連でも、SDG’s( 2016年から2030年までの国際目標。持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成されている)が掲げられている時代です。松沢さんのおっしゃる農業の本質を、いまこそ意識すべき時だと思います。

変わってしまった農家の感覚

いま、農家は「何をつくっていますか?」と聞かれると、「米をつくっています」などと答えるのが当たり前になっています。しかし、福岡県の百姓・思想家である宇根豊さんの著書『百姓学宣言』(農文協、2011年)を読むと、農業近代化以前の農家は、決して「米をつくっている」とは言わなかったそうです。米も野菜も豆も「とれる」ものであって、「つくる」ものではなかったということです。つまり自然の恩恵をいただいているという謙虚さを持っていたのです。それがいつの間にか、農家自身も貨幣経済の価値観に染められてしまい、自然の恩恵を受けて暮らしているという感覚を失ってしまったことを表していると、宇根さんは指摘しています。これを読んで、私自身も反省しました。確かに、何のためらいもなく「つくっている」と言っていたからです。

 今は農を生業としていくためには機械に頼らざるを得ないのは確かですが、天候不順の今年、私たちは自然の恩恵を受けて生きているということを改めてしっかり胸に刻んでいこうと思いました。


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