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農産物自由化は消費者にメリット?


 今回は、やぎ農園のお米とともに毎月お届けしている「やぎ農園 田んぼだより」今月号から転載します。

食料自給率37%の衝撃

8月7日の日本農業新聞1面の見出しに、私は大きな衝撃を受けました。ここ数年、日本の食料自給率が低下傾向にありましたが、昨年は37%にまで下がったというのです。この数字は、タイ米の緊急輸入で揺れた1993年の大冷害の時の37%と並び、1960年に食料自給率の統計を取り始めてから最低なのです。

 お米については、田んぼで主食用米以外のものをつくると補助金が出るという減反政策が続けられているので、余力があります。それにもかかわらず食料自給率が下がっているのは、お米の消費量がどんどん減っている一方で、大豆(7%)や小麦(14%)の自給率は低く、畜産物への依存度も高まってきていることも原因ではないかと思います。畜産物については、国産であっても輸入した飼料で生産されたものは自給分に算入されないことになっています。現在の飼料自給率は25%(2018年度)しかなく、しかも自由貿易協定の影響で畜産物の輸入が増えているので、畜産物の自給率はますます減る傾向にあります。これも食料自給率をますます下げることにつながるでしょう。参考までに、農水省のホームページから海外諸国の食料自給率を拾ってみると、アメリカ130%、フランス127%、ドイツ95%、イギリス63%、イタリア60%などとなっています。

農産物貿易自由化は農家にとっての問題なのか?

TPP(環太平洋連携協定)、EUとの経済連携協定が発効し、畜産物の輸入はどんどん進んでいるようです。さらに今度は日米自由貿易協定が締結されようとしています。このように貿易の自由化で食べものが安くなるということは消費者の立場から歓迎されることなのでしょうか?

このことについて、一貫して現在の政府の農業政策を批判している鈴木宣弘・東京大学教授は、7月23日付の日本農業新聞の「自由化は国民の問題」と題するコラムで次のように指摘しています。

「農産物貿易自由化は農家が困るだけで、消費者にはメリットだ、というのは間違いである。いつでも安全・安心な国産の食料が手に入らなくなることの危険を考えたら、自由化は、農家の問題ではなく、国民の命と健康の問題なのである。

 つまり輸入農水産物が安い、安いと言っているうちに、エストロゲンなどの成長ホルモン、成長促進剤のラクトパミン、遺伝子組み換え、除草剤の残留、イマザリルなどの防かび剤と、これだけでもリスク満載。これを食べ続けると病気の確率が上昇するなら、これは安いものではなく、こんな高いのものはない。

 日本で、十分とは言えない所得でも奮闘して安全・安心な農水産物を供給してくれる生産者をみんなで支えていくことこそが、実は長期的には最も安いのだということ、食に目先の安さを追求することは命を削ること、子や孫の世代に責任を持てるのかということだ。

 牛丼、豚丼、チーズが安くなって良かったと言っているうちに、気がついたら乳がん、前立腺がんが何倍にも増えて、国産の安全・安心な食料を食べたいと気が付いたときに自給率が1割になっていたら、もう選ぶことさえできない。今はもう、その瀬戸際まで来ていることを認識しなければならない。」

「農業政策を農業保護はやめろという議論に矮小化して批判してはいけない。農林水産業を支えることは国民の命を守ることだ。カナダ政府が30年も前からよく主張している理屈でなるほどと思ったことがある。それは、農家への直接支払いは生産者のための補助金ではなく、消費者補助金なのだというのだ。

 なぜかというと、製造業のようにコスト見合いで農産物の価格を決めると、人の命に関わる必需財が高くて買えない人が出てくるのは避けなくてはならないから、それなりに安く提供してもらうために補助金が必要になる。これは消費者を助けるための補助金を生産者に払っているわけだから、消費者はちゃんと理解して払わなければいけないのだという論理である。この点からも、生産サイドと消費サイドが支え合っている構図が見えてくる。」

この鈴木教授の指摘を農家の応援演説だと思わず、そのまましっかり受け止める人が増えてくることを願っています。今の日本では、政府が率先して今の利益しか考えない政策を続けていますが、それが社会全体に蔓延し、長期的な展望を持って良い方向に変えていこうという力があまりにも弱ってしまっていると思うのです。先の参議院議員選挙での投票率のあまりの低さに、ますますそう思いました。


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