有機農業は宗教?―農薬と子どもの健康について考える(その6―最終回)


農繁期のためブログの更新が遅くなりましたが、この特集記事の最終回をお届けします。私は時々、原因がはっきりしないのですが、頭痛、倦怠感、脱力感が続く、朝起きるのがつらいなどの症状で具合が悪くなることがあります。おそらく他の農家が散布した農薬の影響ではないかと考えています。わが家はすべての作物に対して農薬を使いませんが、農村で暮らす以上、周囲の環境の影響を受けないわけにはいかないのです。

日本の医療現場では、農薬が人の健康状態に大きな影響を与えていると考える医師は数少ないようです。前回ご紹介した、脳神経科学者・黒田洋一郎氏も、有機農家と出会う前は農薬がなければ農業はできないと考えていて、農薬が特に悪いという発想はなかったそうです。しかし、私たちは知らないうちに農薬の影響で具合が悪くなっているのかもしれません。食べ物や飲み物に含まれている農薬が原因の場合も多いようです。今回は、農薬・化学物質中毒の患者さんをたくさん診てきた、日本の医療現場の中では数少ない医師である群馬県前橋市の青山内科小児科医院院長・青山美子医師の講演(2010年日本有機農業研究会神奈川大会記念講演)で取り上げられた実例の数々をご紹介します。

有機リン系農薬による中毒症状

全国で水稲の防除や松くい虫対策にラジコンヘリコプターによる農薬の空中散布が行われています。使われるのは、主に有機リン系とネオニコチノイド系の農薬です。有機リン系農薬による中毒症状は、精神不安、うつ病の症状、目や手足を無意識に使った運動(自動車の運転など)が全くできなくなる、などです。

実例1)31歳女性。1か月に3回も事故を起こす。中毒症状時にはうつろな眼をしていた

    が、治療により半年で回復。

実例2)31歳男性。扁桃腺とリンパ腺が治らなくて病院に入院。ところがその病院内での

    消毒で有機リン中毒に。あまりにも頭が痛いので青山医師の下へ。トイレにも行け

    ないほどの重症だったが、2カ月で回復。

実例3)2001年に有機リン系殺虫剤の空中散布後に様々な自覚症状を訴えて青山医院で

    受診した患者39人のうち心電図の異常が22人に見られた。この症状は、致死的

    な不整脈を起こして突然死を起こす可能性があるものだった。

ネオニコチノイド系農薬による中毒症状

群馬県内では有機リン系農薬を使ったヘリコプターによる空中散布が、2006年に当時の県知事の判断で中止されました。ところがその後、松くい虫防除のために有機リン系の代わりにネオニコチノイド系農薬が地上散布されるようになってきました。それに伴って、かつて診たことのないような患者がたくさん出るようになったそうです。そこで青山医師は県知事や県議に働きかけ、2008年にはネオニコチノイド系農薬の散布もすべて中止になったそうです。

それにもかかわらず、季節に関係なく、松くい虫防除も行われていない地域に住む人たちが、症状を訴えて来るので、原因は食べものか飲み物に違いないと考えたそうです。日本のネオニコチノイド系農薬のお茶、イチゴ、ブドウでの残留基準値は、EU(ヨーロッパ共同体)基準値の500倍と、とても規制が緩いからです。

実例1)8歳男性。胸が苦しいという症状。ネオニコチノイド系農薬の代謝物(体内で分解

    されてできる化学物質)を尿から検出。母親が「健康のために」と毎日リンゴもナ

    シも1個ずつ食べさせていたのをやめさせたら回復。

実例2)3歳男性。ぶどう狩りへ行く。翌日には、そのブドウを絞ったジュースも飲んだ。

    そうしたら、暴れてガラスを割るなど手が付けられなくなった(ADHDのような

    症状)。果物やジュースをやめさせたところ、3日後には普通の子に戻った。

実例3)14歳女性。激しい偏頭痛、肩こり、動機、短期記憶障害、不眠などの症状。記憶

    障害のため、何を食べたかが思い出せなくなる。学業成績も悪い。国産果物とお茶

    を毎日3回摂っていたのをやめさせたところ、学業成績も優秀に。

実例4)25歳女性。イチゴ狩りに行き、食べ放題でたくさん食べたところ、4日後から悪

    寒、頭痛、集中力低下、めまい、全身脱力、筋痛、不眠、短期記憶障害など様々な

    症状が出る。

実例5)28歳女性。ダンボール箱に一杯のブドウを贈られ、3日がかりで食べたところ、

    心電図異常、記憶障害、筋肉痛、腹痛、そして全く歩けなくなってしまい、会社を

    休むことに。1年半後にようやく回復。

実例6)8歳男性。校長と教頭が、「このままいったら、あなたの子どもは犯罪者になるか

    ら学校をやめてくれ」というほどの問題児。この子の住まいは松くい虫防除をやっ

    ている松林の中にあった。自分の名前の漢字も書けなかったが、治療を続けたとこ

    ろ、勉強もできるようになった。

 このように、食べものや飲み物から農薬を取り込んでしまい、それが原因で具合が悪くなったり、歩けなくなったり、暴れるようになってしまうことがあるというのです。みなさんは、これらの症状に心当たりはありませんか。病院へ行っても原因がわからない時、もしかしたら農薬の影響かもしれないのです。

この連載特集記事の終わりに

この記事のきっかけは、ある農家から「有機農業は宗教だ」と言われたことがきっかけでした。この言葉は、「農薬を使わなければ、良い作物ができるわけないだろう」、「売っている農薬が体に悪いわけないだろう」という2つのことを言っているのではないかと思います。すでにたくさんの農家が無農薬で作物を栽培し、有機農業は法的にも定められている現在、「できるわけないだろう」というのは事実に目を閉ざしているとしか言えません。また、これまでいろいろ調べてきたように、農薬は人の体に重大な影響を与え、特にネオニコチノイド農薬は胎児の脳へダメージを与えることが研究者によって明らかにされているのですから、「体に悪いわけがないだろう」というのも事実に目を閉ざしていると言えます。

 子どもたちの健康上の問題がますます大きくなり、社会問題化してからでは手遅れになってしまうかもしれません。農薬の影響の可能性が高いという研究成果を踏まえて、危険な可能性があることは避けるという「予防原則」を徹底していくことが、今大切だと思います。半信半疑だとしても、まず食べものに気を付けて変えてみるということを試してみませんか。

 普通に食べて健康を維持できる食べものをつくるのが有機農家の役割です。付加価値を付けて高く売るために有機農業をしているのではありません。ですから、私は無農薬で栽培する有機農業が広がって当たり前になっていくことを望んでいます。きっと人のためにも、生物のためにも生きやすい環境が整っていくことは間違いないのですから。


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