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小規模稲作のすすめ          新規就農を志す人へ      

 先日、近所の方のご紹介で使われなくなって倉庫にしまってあったハーベスタ(稲の脱穀機)を市内の農家に引き取りに行きました。10年ほど使っていなかったそうですが、大事に整備した上で保管してあったためエンジンは無事に動き引き取ることができました。お礼をしようとしたら、「使ってもらえたらうれしい」と、固辞されました。長年百姓をやってきた方は、自分ができなくなっても農地を荒らさずに大事にしたいという気持ちが強いだけでなく、まだ使える機械は誰かに使ってほしいと願っているものなのです。最近はこんなことが何度もあり、わが家の倉庫には耕運機、田植え機、バインダーなど、稲作に必要な中古農機がどんどん増えています。そんなに持っていても使いきれないのなら必要ないのではと思われるかもしれませんが、いずれ出会うかもしれない新規就農者たちに使ってもらえるように、わが家が仲立ちをするつもりで引き取っています。


小型中古農機で始められる稲作

 このハーベスタという機械は、わが家のように稲を天日干しする農家にとっては必需品で、私も就農したころは先輩農家からお借りしていて、喉から手が出るくらいに欲しかったものです。25年前はまだ当たり前に使われていましたし、インターネットでの取引もない時代だったので、中古品はなかなか手に入りませんでした。それが今では使われなくなった機械がたくさん出回っています。このような機械を使えば、新規就農するときに多額の資金がなくても稲作を始めることができます。

 しかし、このような小型中古農機を使った稲作は、新規就農者の相談窓口では教えてくれません。わが家のような天日干しの稲作は、すっかり片隅に追いやられてしまい、新規就農者に提示されることはないからです。そのため、新規就農を希望する人たちは、多額の投資を必要とするにもかかわらず面積当たりの所得がとても少ない稲作はやれるわけがないと、選択肢から漏れてしまうようです。

大規模稲作は厳しい時代に

 それでは、最新の大型機械を使っている大規模農家なら安泰かというと、米価の急落により経営の存続にかかわる大事な局面を迎えているのが実情です。地域の中核農家によると、最近は化学肥料も品薄かつ価格が上がってきているために確保も容易ではなくなってきているそうです。所得がしっかり得られるわけでもないのに、少しでもかかる経費を削る努力を強いられていて、いったい何のために誰のために経費削減の努力をしなければならないのかと、小規模農家のわが家から見ても気の毒に思えてしまいます。これでは稲作に携わる農家数は減るしかありません。

 人口減少と食生活の変化に伴って日本の米需要は毎年10万トンずつ減少すると予測されています。それでも、かつてのように自給用の米しか作らない飯米農家も含め、小規模農家が日本の稲作を支えているという形に戻していかないと、お米を作る農家が急減してしまい、ある時点で突然お米を作る農家が足りなくなって大騒ぎということも起きるのではないかと思っています。日本の農業政策は、家族や親せきのための自給米・縁故米をつくっている農家の役割を軽視しているからです。世界の食糧事情と日本の経済力が変化していて輸入小麦もこの先これまでのように確保できるかどうかわからなくなることでしょう。

自分のお米をつくり暮らしの充実を

 新規就農者の相談窓口では、どのような作目を選びどのくらいの栽培面積を確保できればこれくらいの収入になる、というように「いかにお金を稼ぐか」ということばかりが聞かされることと思います。でも、「自給力を高めて出ていくお金を減らしましょう」という農家の暮らしの大事な視点は語られることはないでしょう。

 しかしよく考えてみてください。自分で食べるものを自分で作れば、生活の質を充実させることができるのはもちろんですが、出ていくお金を減らすだけでなく、買わないでも食べものが得られるのですから、実はお金で勘定されない収入と同じなのです。中学生の時だったと思いますが、数学で0-(-1)=0+1=1ということをならったときに、「何でマイナスを引くとプラスになるんだろう?」と理解できず、ただ決まり事として覚えたのですが、新規就農してみてよくわかりました。食料を自給しマイナス(支出)が減る(マイナスする)と、その減った支出の分だけ食料が手元にある(プラスになる)わけですから、食費分のお金を稼いだのと同じことになるのです。価格の高い農産物を販売して稼いだお金で食べものを買うのか、それともお金を稼ぐための時間を割いて自分で栽培し・収穫して食べるのか。あなたはどちらを選びますか。自給の延長として消費者に届けるというわが家のような有機農家なら、食べるための仕事も、稼ぐための仕事も区別なく過ごせます。

 お米は暮らしを支える大事な主食です。新規就農するときに、お米を買って食べるのか自分で作って食べるのかによって、暮らしの質も生活費の額も大きく違ってきます。わが家の場合は、このような中古農機を使った小規模稲作を広げたことが今では収入の柱にもなっています。なぜかというと、一般的な米価の変動に関わりなく、わが家が決めた価格で、わが家のこだわりを理解し、おいしいと感じてくださる方々に直接お届けしているからです。米余りの時代に、そのようにお届けする方が増えているのですから張り合いがあります。

 新規就農する場合には、ぜひわが家のような稲作もあるということを念頭に置いてほしいと思います。お米を直接消費者の方々へお届けすると「おいし過ぎて予定よりたくさん食べてしまいます」といううれしい感想をいただくなど、気分も充実すること間違いなしですよ!

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