12月4日、長年アフガニスタンで医療や井戸掘り、用水路の建設を進めてきたNGOペシャワール会の中村哲医師が、銃撃され亡くなりました。人道的支援活動を続け、現地の人たちからも信頼されているはずの中村医師が狙われたことが、信じられませんでした。どうしてこうなったのか、理解できませんでした。しかし、12月7日付東京新聞「本音のコラム」に師岡カリーマさんがその理由について次のように書いているのを読み、腑に落ちました。
「絶望」を妨げるもの
「君たちのことなんて、世界中がどうでもよいと思っているのさ。米軍も日本人もみな同じ。俺たちは利用されているだけだ。戦うほかに誇りを取り戻す道はない。武器を取れ。そういう言葉のウソを、中村哲さんの存在そのものが暴いていた。」
それでは、現地の人々の生活を改善するために努力してきた中村さんを殺害することで一体誰が得をするのか。
「医療や飲料水の提供によって最も弱い人々に救いの手を差し伸べる無私の善意は、貧困とみじめさを利用して若者を暴力へと誘う勢力にとって、不都合だ。親身になって助けてくれる外国人もいる。地道に努力すれば、少しずつ生活は改善できる。平和が来れば、幸せな人生を築くことだってできる。こういう希望はすべて、絶望という被害者意識を餌にする武装組織のリクルートには邪魔なのだ。」
人にとって、平穏で当たり前に暮らせる日常があれば、わざわざ武器を手に、命をかけて戦う動機など生まれるはずがありません。中村さんは、当初医師として診療をしていましたが、若者たちが武装集団に加わる背景には貧困があることを見抜き、アフガニスタンを平和に導くには貧困の解決が不可欠であるとの信念で、井戸掘りや灌漑事業により農業を安定させ、生活が改善していくことを目指してきたそうです。このことを知り、私が有機農業の役割として考えてきたことにも通じると思いました。
壊されたくない日常こそ大切
ごく当たり前の日常を、食を通して支えるのが農家の仕事ですが、わが家のような有機農家の多くは日々の作業を通して得られたお米や野菜などを、直接食べてくださる方たちにお届けしているので、なおさら支え合っているという実感があります。こうして、「壊されたくない日常があることは、戦争へ導こうとする人たちに迎合しない強い力になる」と信じています。それは、中村医師が取り組んでこられた活動の根底にある信念と共通していると感じました。逆に、生きる望みを失い、人を信頼することができない人が多くなればなるほど、誰か、あるいはどこかの国を攻撃しようとする言説に飲み込まれ、誤った方向へと社会は進んでしまう可能性が高まると思います。これは、近頃のヘイトスピーチの状況を見れば想像がつくことです。
国内農業をどんどん縮小し、地方で暮らす人々の土台を壊そうとする安倍政権の方針は、日本がますます国際情勢の変化に巻き込まれる危険性を高めるとともに、将来国民が飢える可能性も高めています。これは、アフガニスタンで中村医師が尽力されてきたこととは真逆のことです。中村医師が灌漑事業によって大地を潤し、地域の人々が安心して暮らせるように尽力されたことは、上辺だけの言葉を使わない素晴らしい平和活動でした。敬意を表するとともに、心から死を悼みます。
今は世界の流れが軍縮とは逆の方向へ動き出しています。しかし、軍備を増強することが平和につながるとは思いません。中村医師の信念の通り、人への信頼を大切にし、穏やかな暮らしを保証することこそ、平和につながるものと確信しています。わが家も、日々の暮らしを通して、戦争を望まない社会になるようにしていきたいです。
日米開戦から78年経つこの日に