先日、隣の鴨川市で学校給食をテーマに開催された「オーガニックシンポジウム」(主催:千葉県有機農業推進協議会)に参加してきました。基調講演が愛媛県今治(いまばり)市の学校給食への取り組みについて安井孝・今治市産業部長のお話、次に事例紹介として学校給食のお米を全量有機米に変えたいすみ市の大田洋市長のお話、続くパネルディスカッションでは鴨川市の半農半歌手Yaeさんが進行役をつとめ、完全米飯給食を実施している南房総市の石井裕市長、オーガニックなまちづくり条例を制定した木更津市の渡邉芳邦市長、そして佐倉市のGrace Farm農園長・高師美帆さんの発表と意見交換が行われるという充実したプログラムでした。地産地消の学校給食を核に町が変わってきた、あるいはこれからどんどん変えていこうとしているという、未来への希望を感じる話だと思いました。その中から、今回は今治市の安井さんのお話についてまとめてみようと思います。
地産地消で地元が元気に
今治市というと、昔からタオルの生産地として知られ、最近では加計学園疑惑で揺れていますが、有機農業に携わっている私は、以前から地産地消の学校給食を続けてきた町として知っていました。なぜかというと、今回お話をされた安井さんは、私も会員である日本有機農業研究会においてたびたび今治市の取り組みについて報告をされてきたからです。安井さんは、学生時代から有機農業について学び、今治市の職員として一貫して学校給食に関わる傍ら、私人としても愛媛県有機農業研究会を立ち上げるなど有機農業の普及にも力を注いできました。私は昨年夏にも、いすみ市で安井さんのお話を聞きましたが、今回改めてお話を聞き、今治市の取り組みの幅広さとその地域への影響がよくわかり、とてもいいまちづくりだと思いました。
今治市では、1983年より今治産の農産物を優先的に使用していて、現在は野菜と果物で市内産が40%(そのうち10%は有機農産物)、その他の県内産が20%などとなっているそうです。2005年に大合併で誕生した新・今治市では、翌年「今治市食と農のまちづくり条例」が制定されました。この条例は、「地産地消の推進」「食育の推進」「有機農業の振興」を柱とした街づくりの方針を明確にしています。安井さんによると、地域の農林水産業者の人たちに元気になってほしいという願い、市民や子どもたちに今治の食を食べてもらい地域の農林水産業を支えてほしいという願い、この条例には2つの願いが込められているそうです。
今治市には20の調理場があり、毎日1万3千食の学校給食が作られていますが、それぞれに栄養士さんがいるので献立は20通りあるそうです。米飯3日、パン食2日という組み合わせになっています。1999年からお米は全量今治産の特別栽培米(農薬・化学肥料を従来の50%以上削減)に変えましたが、2003年に栽培面積13ヘクタール、栽培農家26戸だったものが、3年後には36ヘクタール、72戸に増えました。それは、「給食の米の方がおいしい」という子どもたちの声をうけて同じように作られているお米を買い求める市民が増え、家庭でも食べられるようになったからだそうです。2001年からパン用小麦も今治産にしようという取り組みが始まり、徐々に栽培面積が増えて現在は15ヘクタール栽培し60トンのパン用小麦(約7か月分)を収穫しているそうです。安井さんはこれについて「今治ではつくられていなかったパン用小麦がこれだけつくられるようになったことで、市民が支払った給食費がアメリカへ回っていたものが、今では今治の農家に支払われるようになった。このように経済の地域循環が生まれることを地産地消によるローカルマーケットの創出と呼んでいます」と語りました。
このように地産地消にこだわった学校給食は、まず親たちの意識を変え、農産物の生産現場にも良い影響を与えてきました。ここでさらに地元スーパーの広告チラシがスクリーンに映し出されました。何かと思ったら、広告チラシの目立つ中心に「地産地消」と書いてあります。今治では「地産地消」をうたい文句にした方が売れるということを示しているのだということでした。
学校給食を通して意識が変わる
安井さんの唱える学校給食の法則によると、小中学校で給食を食べるのは町の人口の1割、給食日数は全国的に185日か186日、全国平均の給食費は1食250円なので、その町の人口がわかればおおよその給食費総額がわかるということです。そのうち、牛乳が1/6、米・パンが1/6.野菜が1/6などとなっているので、そのまちでつくられたものを学校給食で使うようになるとどれだけのお金が地元に回るのかが計算できます。こうすることで、地元の理解を得やすくなるということです。計算すると、子どもたちが1年間に食べる食事の1/6は学校給食だそうです。それだけ子どもたちにとって学校給食は大きな意味があることになります。
今治市では、学校給食のメニューの作り方を知りたいという家庭からの要望もあり、栄養士さんたちがつくったレシピ集を発行しました。そこには、その食材をどこで手に入れられるかということも書かれています。このようなことも、地産地消の広がりにつながっているのでしょう。学校給食の食材がおいしければ、まちの人がそれを選ぶようになる。そうすれば、子どもたちの家庭でも食べるようになるから、子どもたちだけで給食費の6倍、家族も食べればその何倍というわけで、地元の生産物を介してお金が地元に回るようになってゆくという、地域を元気にしていく可能性が感じられます。
今治市の取り組みはこれだけではありません。食育の副読本と教育プログラムをつくり実践しています。食べものによってうんちがどう変わるかという観察まで取り入れて、子どもたちにどのような食べものを、どのように食べたら健康になれるのかを考えてもらい、さらに自分で食事をつくれるようになるところまで教えています。これは、最近の若い人たちの食生活の実情を憂いてのことのようで、子どもたちに健やかに育って欲しいという願いが込められていることを感じました。
このように、今治市は地産地消の学校給食を中心に「今治市食と農のまちづくり条例」を具体化しています。35年も取り組みを続けてきた結果、地産地消が市民に広く浸透していることがよく伝わってきました。
当地、南房総市の学校給食は完全米飯給食となっていて、ごはんを中心とした献立になるという点でいい取り組みだと思います。これをさらに一歩進めて地産地消率を高める努力をし、さらに(欲を言えば)有機農産物化を少しずつ進めていけば、給食の質が高まるだけでなく、まちのひとの食べものや農業に対する意識も変わってゆくのではないか、そんな希望を感じるひと時でした。
次回は、学校給食のお米を100%有機米へという、いすみ市での取り組みについて書こうと思います。