2月11日付の日本農業新聞1面のトップ記事の見出しは「生鮮食品宅配が過熱 スーパー続々と参入」というものでした。食品スーパーの売り上げが少しずつ減少する傾向にある一方、食品宅配市場は今後も年3%ずつ成長するとの見通しがあるということで、大手スーパーが通販業者と連携して新たに宅配事業を始めたり、始める予定だとしています。すでにインターネット通販大手のアマゾンジャパンが生鮮食品の宅配を17年から始めているため、宅配市場では熾烈な主導権争いが始まっていて、有機農産物を扱ってきた宅配業者も経営統合を進めているということです。オイシックスと大地を守る会が17年10月に経営統合してできた「オイシックスドット大地」(ホームページによると利用者190万人突破)は、「らでぃっしゅぼーや」を18年2月に子会社化することで、年間売上は550億円を超えるという見通しを伝えています。
オイシックスは、「子どもに安心して食べさせられる食材」をコンセプトに2000年に創業。有機・特別栽培野菜、添加物を使わない加工食品などをインターネット宅配する事業を展開。大地を守る会は、1975年に都内の団地での無農薬野菜の青空市が出発点。「日本の1次産業を守り育てる」「人々の健康と命を守ること」「持続可能な社会をつくること」という社会的な課題をビジネスで解決していく社会的企業(ソーシャルビジネス)を目指すとしてきました。また、らでぃっしゅぼーやは、日本リサイクル運動市民の会が行っていた有機・低農薬野菜の宅配事業を1988年に企業化して始まり、その後、3度の買収によりNTTドコモの子会社となりました。この3社が統合することについて、企業理念を見れば違和感はないのかもしれませんが、私は疑問を感じています。統合に当たり有機農産物の登録生産者数を従来の2倍にあたる5100人に増やしたということですが、有機農産物の流通をこのように巨大化、1極集中でいいのだろうかと思うのです。
大地を守る会をこれまでけん引してきた藤田和芳氏の唱えるように、原点は市民運動的な発想であっても、それがビジネスとして成り立ち、きちんとした対価を得られるようにしなければ長続きはしないし広がらない、だから社会的課題をビジネスで解決していく、という手法には学ぶべきことがあると思います。しかし、いろいろな業界で経営統合による巨大化が進む中で、同じように巨大化をすすめるとなると、社会的な課題を解決しようとする市民運動的な原点から大きく離れてしまうのではないかと感じてしまうのです。組織が巨大化することによって、そこに関わる個々の人が見えなくなってしまったり、消費者にとっての利便性を追求することによって、農業の地域性や季節感がわからなくなってしまったり。結果として、農業の現場との距離が開いてしまうのではないか、そんな気がします。
個人有機農家への影響は
このような流通の動きは、わが家のような個人経営の有機農家にとって無関係なことなのでしょうか。わが家の場合は、1970年代に始まる有機農業運動の中でつくりあげられてきた「提携(世界でもTEIKEIとして知られている)」という形を大事にしています。これは、生産者と消費者の信頼関係に基づき、流通業者を介さずに直接やり取りするという形で、今はアメリカやフランスなどの国々でも盛んになってきているそうです。この形だと農家が直接田畑や農作業の様子、作物の状況などについて伝えることができ、それによって消費者も農家をより身近に感じられます。そのため、長くお付き合いが続く場合が多くなります。
このような提携がしっかりできている農家であれば、宅配業者がどのように動こうとも影響なく過ごすことができそうです。しかし、そのような関係を新たに築こうとしている農家にとっては、影響があるかもしれません。今はインターネットが大きな影響を持つ時代。インターネットを利用した情報発信も、広告費を使う企業の方がより目に触れやすくなり有利だともいえるからです。それでも、農家と直接つながりたいと思う人たちは少なからずいるので、インターネットやファーマーズマーケットなどを上手く使える農家にとっては、まったく影響はないと言えるかもしれません。わが家もそのような農家であるために、いろいろな方々とのお付き合いを広げていきたいと思います。