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  • やぎ農園田んぼだより2017年11月号より

おいしさは自分の舌で感じるもの


  先日、はざ掛け米トラストの行事としてわが家で開催した収穫祭で、お米の食べ比べをやりました。まず、品種名を伏せたまま3つの品種の炊き立てご飯を食べてもらいます。そして一番おいしいと感じたごはんに貼ってあるシールの色で投票してもらいます。投票が終わってから各色の品種名を発表します。わが家で栽培しているのは、ひとめぼれ、ササニシキ、コシヒカリの3つの品種ですが、投票の結果ひとめぼれが18人中10人で一番人気でした。わが家ではこれまでずっとひとめぼれを栽培してきたので、それが一番おいしいと感じてもらえたことは、とてもうれしいことでした。

  この試みのねらいは、先入観なしに舌で選んだ時に、どれがおいしいと思うかを確かめることでした。一般にはコシヒカリが一番おいしいという評価があって、価格もそれに対応して違っていますが、美味しさの感じ方は人それぞれ違うはず。だから、本当にそうなのかを確かめたいと思ったのです。 

新潟県産コシヒカリはコシヒカリではない!?

  この見出しを見て、何を言いたいのだろうかと思われたことでしょうが、これは実際に起きていることなのです。コシヒカリ信仰は根強く、中でも新潟県産コシヒカリが一番おいしいといわれることから、新潟県産を偽るコシヒカリが大量に出まわっているということは、よく知られたことでした。その対策として新潟県とJAが打ち出したのが、食味を変えないまま品種を取り換えるというものでした。

  2005年に、新潟県内でコシヒカリとして作付されるイネのほとんどが「コシヒカリBL」という品種に切り換えられました。BLとは、イネの栽培上大きな問題になるいもち病に抵抗性があるということを意味しています。コシヒカリの変種かのような名前ですが、実はまったく別物なのです。新潟県がコシヒカリBLを導入した際にメリットとしてあげたことの一つは、DNA鑑定によって他県産のコシヒカリと区別できるということでした。つまり、本来は別の品種だということなのです。しかし、コシヒカリBLは米の銘柄としては新潟県産コシヒカリとして扱われ、玄米の紙袋の表示では品種名がコシヒカリBLとなっているものの、精米され小売販売されるものの袋の表示はコシヒカリとなるそうで、表示のされ方を問題視する声もあるそうです。

  複雑なのは、コシヒカリBLがひとつの品種ではないということです。現在6品種あるそうで、そのうちの4品種の種籾を年ごとに比率を変えて混合して栽培するというのです。つまり、現在流通している新潟県産コシヒカリのほとんどは、複数の品種が混ざった米で、外観上は区別がつかないけれどもコシヒカリという品種ではないということなのだそうです。農家やお米屋さんの中には、このような事情や、コシヒカリと同等だとされている食味に疑問を持ち、従来のコシヒカリの栽培や販売にこだわっている人たちも少数ながらいるということです。ブランドを守るということは、本来は喜んでもらえるしっかりとしたものを作り続けるということだと私は思います。しかし新潟県の対応の仕方は、名前を取って実を捨てたと言えるものでブランドを守るのとは違うのではないかと疑問を感じます。

お墨付きではなく、自分の五感で選ぶ

  新潟県産コシヒカリで起きていることは、「新潟県産コシヒカリ」のブランド力を横取りされないためには、消費者をある意味騙すことさえ厭わないという、新潟県やJAの思惑が生み出した問題です。逆に言えば、消費者側は「新潟県産コシヒカリ」というブランドを目印に選んでいるだけで、地元の農家やお米屋さんが疑問を抱くような食味をしっかり吟味していないのだということにもなります。人は公的機関や信頼できる誰かのお墨付きに頼りがちですが、わが家で行った食べ比べのように、先入観を持たず、自分の五感で選ぶということが大切だと思います。

  この「お墨付き」をどうとらえるかということは、2000年ごろ有機農家の間でも問題になりました。有機農産物の流通に関する世界的な動きに合わせて日本でも有機農産物の規格について法規制を始めることになったからです。いわゆる有機JAS法が2001年4月1日に施行され、一般の流通・小売りでは、認証機関の検査を受け認証マークを付けたものでなければ「有機」や「オーガニック」の表示はできないことになりました。これを受けて、有機JAS認証マークというお墨付きを持って販路を確保していこうとする農家と、第三者のお墨付きに頼らず消費者と交流しながら、直接知ってもらうことで緊密な関係を築くことを大切にしようとする農家に分かれていきました。わが家は相変わらず後者の立場を選び続けています。ただつくった農産物が売れればいいというのではなく、直接思いを伝えたり、逆に感想をいただいたりという交流を大事にしたいからです。

海外の農場で働いた経験もある研修生の中村さんから、他国の人たちはいつも自分の考えや立場をはっきりさせていると聞きました。日本人は第三者の評価やお墨付きに弱いと思うのですが、それは自分の感覚や意見を曖昧にしているからなのでしょう。何ごとも五感を働かせて何が大事なのかを見分けたいものです。                                                  (八木直樹)


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