突然、与党の都合のいいように行われることになった解散・総選挙。政権の私物化が明らかになり不支持率が高まってきた中でも与党が圧勝したのは、政府が「弾道ミサイル落下時の行動について」という広報を流したり(内閣官房 国民保護ポータルサイトでインターネット上に掲示。南房総市の広報誌10月号にも転載されました)、避難訓練を各地で実施するなどして北朝鮮の脅威を煽ってきたことも影響したのかもしれません。安倍政権は、安全保障政策に力を入れているという姿勢を見せてはいますが、実は軍事のことばかりを考えているだけで、本当に安全保障を考えているとは思えません。それは、食料の問題がすっぽりと抜け落ちているからです。そして、そのことを追求しようとしない大手マスコミも罪深いと感じています。
今、日本の食料自給率はどうなっているかご存知でしょうか。1965年に73%だったのがどんどん下がっていき、2010年以降は40%を割って39%になっていました。それが昨年は38%とさらに下がったのです。統計史上最低だった1993年の37%に迫るところまで落ち込んでいるのです。
何度も書きましたが、1993年は東北地方の冷害による米の大凶作が起き、翌94年には「平成の米騒動」が起きてタイ米が緊急輸入されるという事態になりました。その当時の食料自給水準にまで落ち込んでいるというのです。それこそ「国難」だとして大騒ぎにならなければおかしいほどの事態だと思います。大手のマスコミがこの「国難」を取り上げない中、「日本農業新聞」はこのことをしっかり指摘しています。
10月7日付の「論点」では、資源・食糧問題研究所代表の柴田明夫氏が「食糧安保確保できぬ」という見出しで、政府が大規模農家や法人ばかりに肩入れする「攻めの農業」政策をとる中で食料自給率が低下しているという現実を直視し、家族経営農家の重要性を見直さなければ「食の安全保障を確保することができない、と問題提起しています。また、10月16日付の「論説」(社説)では、この日が世界食糧デー(世界の食糧問題を考えるために国連が制定)なのに因んで「海外依存の危うさ共有」という見出しを掲げています。下記に一部抜粋します。
私たちの食料をさらに海外に頼り続けるのか。食料自給率が38%にまで落ち込んだ日本の食料安全保障がまさに問われている。16日は「世界食糧デー」。海外依存の危うさを国民全体で共有したい。
(中略)6月の経済財政運営の基本となる「骨太の方針」で、前年にあった「食料安全保障の確立」の文言が何の議論もなく消えた。食糧安保をおろそかにしてきた付けか、2016年のカロリーベースの食料自給率は38%と史上2番目の低さとなった。政府に危機感はなく、対応策がなされないのも問題だ。
(中略)世界の飢餓人口は10年ぶりに増加に転じた。9人に1人が飢えに直面している。紛争、内戦による難民増加や地球温暖化に伴う異常気象の増加が理由だ。今後も急増する人口をどう養うのかが国際的な課題である。
食料需給の高まりに対し、できるだけ自国で食料を賄うことが先進国の責務ではないか。食と農の現実を見つめ、食料安全保障を議論する時である。
憲法に食料安保 国民投票 8割賛成 スイス
同じ論説の中で、今年9月にスイスで行われた国民投票について次のように触れています。
見習いたいのがスイスだ。9月末、食料安全保障を連邦憲法に明記するかどうかを問う国民投票が行われ、8割の圧倒的多数で採択された。主要先進国で憲法に食料安保の大切さを明記するのは初めてという。国民への食料供給を確保するため、「農地の保全」「適地適産」などを加えた。
スイスは日本と似ている。山岳地が多く、人件費が高くて、農業生産には不利。農家数や農地は減少傾向が続き、財界からは農業予算の削減を迫られている。政府は自由貿易を推進しており、食料自給率は55%と欧州では下位にある。
この実態に危機感を抱いた農業団体が3年前、憲法に食料安保を書き込むことを提案、わずか3カ月で15万人の署名を集めた。ちなみに総人口は800万人。10万人の署名を集めれば国民発議ができる直接民主制の国である。発議後も利害関係者が熟議し、修正を経た結果、当初の国内農業重視の色合いは薄れたものの、農業振興の足ががりになるのは間違いない。
何より経済界や消費者を含め幅広い国民の理解と支持を得た意義は大きい。現行のスイス農業政策も各界代表が参画して9年かけて議論した。「食料主権」「持続可能な消費」など新しい概念が導入された。食べ残しや流通など消費者側の課題から、ダンピングを許さない貿易の在り方まで、とことん話し合って着地点を探った。
スイスは、20年前にも農業の多面的機能の役割を、主要国で初めて憲法に明記したということで、国民にとって農業は無くてはならないものだということが、共通認識になっていることを感じます。一方日本はどうかというと、第2次大戦中に亡くなった日本兵の6割以上は飢えやそれに伴う病死だったことや、植民地だった朝鮮や台湾を失った戦後に食糧難の時代があったこと、さらに「平成の米騒動」というほんの25年ほど前の出来事さえ忘れてしまっているのですから、救いようがないほど危ない状況です。食料主権と国内自給を軽視する安倍政権の言う「安全保障」は、まやかしであると私は思っています。 (八木直樹)