突然決まった主要作物種子法(種子法)廃止
1月27日付日本農業新聞に「種子法廃止」という見出しの記事が掲載されました。一般紙ではこのことについて触れていないのではないかと思います。しかし、農業関係者だけでは済まされない大事な問題だと感じています。この主要作物種子法は、1952年に食料確保を目的に制定されたものです。都道府県が基礎食料である稲、麦、大豆について、優れた特性を持つ品種を奨励品種に指定し、種子を生産することを義務付けました。この法律を根拠に、都道府県は公費を投じて品種改良を行い、地域の特性に合わせた種子の安価な安定供給を行ってきました。国民の食生活の基本食料を常に安定して確保していくために必要な農業政政策なのです。
ところが、このたび農水省はこの種子法を廃止する法案を今国会に提出すると発表しました。「民間の種子開発への参入が阻害されており、民間業者に都道府県の種子や施設の提供を進め、民間企業と連携して種子の開発を活発化させることが狙い」だといっています。実はこの種子法廃止は、政府が規制改革は成長戦略の中核だとして政策の検討を行うために設けた規制改革推進会議が昨年10月にまとめた提言の中に盛り込まれていたものです。その提言書の中には、「戦略物資である種子・種苗については、国は、国家戦略・知財戦略として、民間活力を最大限に活用した開発・供給体制を構築する。そうした体制整備に資するため、地方公共団体中心のシステムで、民間の品種開発意欲を阻害している主要作物種子法は廃止する」と明記されていました。
この経済成長を最優先させようとする政府と財界の意向を全面に出した規制改革会議の提言は、「戦略物資」「国家戦略・知財(知的財産」戦略)という言葉から感じられるように、種子は民間企業の利益を生み出す資源であって、国民が安心して暮らしていくための基礎となる重要な資源だという認識を全く欠いています。
種子法廃止で心配されること
この法律の廃止で、①食料の安定供給という目的で進められてきた公的機関による育種や種子の供給が衰退してしまうのではないか、②海外の企業が参入することによって、やがては貴重な在来種などの遺伝資源が奪われ、毎年高い特許付き種子を買わなければ生産できないような種の寡占・独占が起きるのではないか、ということが心配されます。
このような種子法廃止の問題点について、2月2日付日本農業新聞に「多国籍企業参入に不安」という見出しで久野秀二・京都大学教授(農業・食料・バイオテクノロジーの国際政治経済学が専門)へのインタビュー記事が掲載されました。その中で久野教授はアメリカで起きたことに基づいて次のように話しています。
「米、麦は種子産業が大きく発展した米国ですら、州農業試験場や土地交付大学による公的育種が主流で、良質な品種の種子が比較的安価に供給されている。近年まで小麦種子需要の8割を自家採種がカバーし、残り2割の認証種子のうち公共品種が6割を占めていたという。しかし、2009年にモンサント社が種子業者を買収するなど、巨大企業のターゲットが小麦に向かっている。
大豆では1980年時点で公共品種が7割を占めていたが、98年までに1割に減少し、現在はモンサント社など4社のシェアが76%までに達し、ほとんどが遺伝子組み換え(GМ)だ。
日本の米品種は国、都道府県の農業試験場が高い技術と豊富な遺伝資源を蓄積してきたが、法律がこのままなくなると、米国の前例を踏まえれば、公的育種、種子事業が将来的に巨大多国籍企業の種子ビジネスに置き換わる恐れもあるだろう。
種子研究や種子政策に長年携わってきた現場の意見を聞かずに廃止ありきで議論が進んでいる。唐突な廃止は種子政策だけでなく、農業政策に大きな禍根を残すだろう。」
このように、種子法廃止という選択は、巨大多国籍企業による種子ビジネスの新たな活動地域として日本を提供し、国内農業と国民の食料がそのような巨大企業の思惑に左右されることにつながる危険性をはらんでいます。今後国会の場でどの程度議論され、また報道されるのかわかりませんが、皆様も関心を寄せてください。