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農の現場で考える2023(その4)~高まる有機農業推進の機運

更新日:2023年12月25日





 一昨年、国が「みどりの食料システム戦略」という方針を示し、2050年までに耕地面積の4分の1を有機農業に転換するなどとした目標を掲げたこともあり、最近はいろいろな方面で有機農業が注目されています。学校給食のお米を、すべて地元産の有機米に変えていこうという動きは、すでに千葉県内ではいすみ市が2017年から始めていて、木更津市でも2025年には達成する見込みとなっているなど、全国で具体化し始めています。6月には全国32の市町村とJAや生協が参加する全国オーガニック給食協議会が発足しました。国会議員の中でも、全国の小中学校でオーガニック給食を広め、併せて有機農業を全国展開して子どもたちの健康に配慮した食材を提供することを目指す超党派の議員連盟が発足しました。また、「みどりの食料システム戦略」にのっとり有機農業の推進を宣言としてまとめた「オーガニックビレッジ宣言」自治体は、2023年の11月時点で全国92の自治体にまで急増しています。

 大手流通業界でも動きが活発化していて有機食品の取り扱いが増えているようですが、特にイオンは今年、昨年の3倍の売り上げを目指すだけでなく、自社グループ内で供給体制も整えるために19の直営農場あわせて400ヘクタールを2028年までに有機農業に転換するとの方針を発表しました。流通大手がこのような思い切った方針を打ち出したことは、それだけ有機農業、有機食品を受け容れる空気が広がってきたことを表していると感じました。

 

「有機農業では潰れる!」どころか生き残った

 先日、千葉県が主催した有機農業研修会に参加するため、千葉市を訪れました。この研修会において水稲の有機栽培技術について講演をされたのは、栃木県上三川町にあるNPO法人民間稲作研究所理事長である舘野廣幸(たてのひろゆき)さんです。舘野さんはNPO法人日本有機農業研究会の理事でもあり、私も以前その研究会の千葉県幹事を務めた時からお付き合いのあった方です。10年前に見学会で舘野さんの農場を訪れた時には、有機稲作8ヘクタールだということでしたが、その後周囲の農家からの依頼で耕作面積が増え、現在は14ヘクタールにもなったそうです。舘野さんは、「稲作が有機に変わってゆけば有機農業の面積は急速に広がるだろう」と語りました。

 舘野さんが慣行栽培の稲作から有機栽培に転換したころ、親せきから「お前は家をつぶす気か」とさんざんと大反対されたそうです。しかし30年経った今、有機農業に転じた舘野さんがつぶれるどころか、周囲の農家がやめてしまい、舘野さんがそれらの農家の田んぼを預かるようになったそうです。

 

大切なのは持続可能な地域となるかどうか

 この研修会では、すでに市内で給食用有機米の生産を進めていて2025年には100%の自給率を達成する見込みだという木更津市農林水産課職員・滝沢諭さんの事例発表も行われました。木更津市では有機米を導入するにあたり、技術研修会を開いたり田植え機、除草機などの購入補助をするだけでなく、一般米との差額補填を教育予算から支出して生産者価格を2万円としているということでした。私は、南房総市議会での有機農業に対する批判意見を挙げたうえで、「木更津市では、有機農業の普及や学校給食への有機米の導入に対して、市議や農業関係者の中から反対の声はなかったのでしょうか、」と質問しました。すると、滝沢さんは「地元の子どもたちのためという点では皆一致出来たため、うまく進めることができました」と答えました。きっと市の職員の中に話をまとめる力のある人がいたのではないかと思います。有機農業か慣行農業かと対立しがちですが、行政が知恵を絞って地域にとってプラスになることをうまくい提示できれば、もっといろいろな自治体で話が進むのではないでしょうか。

 

なぜ有機農業が求められているのか

 NPO法人民間稲作研究所の創設者である前理事長・稲葉光國さんは千葉県いすみ市の完全有機米給食実現に向けて技術指導を行った方で、木更津市でも指導に当たり2026年の完全有機米給食実現を目指して取り組みを続けておられた一昨年、残念ながら亡くなりました。舘野さんは、稲葉さんの教えを受けて30年前に慣行稲作から有機稲作へと転換し、師と仰ぐ稲葉さんの遺志を継いで理事長に就任したのです。

 有機農業を目指す方々にとってきっと参考になったであろう技術的なお話もたくさんありましたが、ここでは省略します。さすがに舘野さんらしいと感じたのは、技術的なお話の前に、そもそも有機農業の本質は何かというお話をされたことです。有機農業が社会的に認知されるきっかけとなった有機JAS認証と有機農業推進法では「化学肥料農薬の不使用、、化学肥料の不使用、遺伝子組み換え技術の不使用」という定義が示されていて、○○を使わないことばかりが強調されているのはどうかと思うと語った後に、「有機」とは、有機体(いのち)と共生・生態系の(つながり)、そして循環と輪廻という(めぐり)を表している、つまり自然生態系を維持することによって人間の生命と社会が存続する条件を整えるものだと説明しました。

 有機農業は科学的・工業的に合成されたものを使わないのですが、有機農業ということばが普及してきた今、なぜそれが必要なのかということがあまり意識されていないように感じます。農薬と化学肥料の多用によって生き物たちの連鎖とバランスによって成り立っている生態系は壊されてきました。ますます壊されてしまえば、私たち人間のいのちの存続にも影響しかねなません。人類の長い農耕の歴史の中で、農薬と化学肥料に頼ってきた期間はほんのわずかなのだから、元に戻せなくなる前に見直しましょうというのが、世界で起きている有機農業の広がりと日本の農業政策の見直しなのだと私は理解しています。

 有機農業が広がってゆくときにもう一つ忘れてはならないと私が思うことは、人のいのちを支える食べものをつくるのが本来の農業だということです。農薬と化学肥料を多用する農業により、生産量が増えたり、見栄えを重視する流通現場の需要にこたえることになったわけですが、人の健康や子どもたちの健やかな成長への食べものの役割と影響についてはあまり意識されてきませんでした。

 しかし最近、わが家のような小さな農家へも問い合わせがたくさん届くようになった背景には、人が本来口にすべき食べものを得ることが難しいと感じていらっしゃる方が増えてきていること、そのような食べものとしての農産物の生産農家への期待が高まってきていることがあるのではないかと強く感じています。本来の食べものを生産するからこそ有機農業が大切なのだということを、強く発信していきたいと思います。

 

 *舘野廣幸さんには『有機農業みんなの疑問』(2007年、筑波書房)という著書があり、農業の観点から、あるいは生き物たちの観点から有機農業の世界についてわかりやすく説き、農薬と化学肥料がなぜ良くないのかということについても触れています。なるほど!という発見がある本なので、興味のある方はぜひお読みください。



*写真は、現在のわが家の野菜畑です。この時期にしては温暖なため虫食いもありますが、土が良くなってきたようで、くず大豆緑肥だけで野菜がぐんぐん育っています。


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