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森のようちえんと関わって10年目の新たな試み

更新日:2021年6月24日


 わが家の小さな田んぼでは毎年、南房総市に拠点を置く森のようちえんはっぴーの3~5歳児の子どもたちがやって来て、田植え・草取り・稲刈りをします。その田んぼを、わが家では「はっぴー田んぼ」と呼んでいて、子どもたちが田植えにやってくる直前までわが家のすべての田んぼに植える苗を育てる苗代になっています。収穫したもち米を秋に開かれる感謝祭での餅つきに使い皆で味わうという一連の活動は、今年で10年目を迎えました。初期のころに来ていた子どもたちは、もう中学生になっています。一年のうちにほんの3回田んぼに入るだけですが、子どもたちにも父母たちにも強い印象を与えてきたことは間違いないことを実感しています。3年目になると、親の助けを借りずに自分たちだけで田植えができてしまうほどの成長ぶりに驚かされてきました。

 ただ残念に思ってきたことは、育てたもち米を皆でついてもちを食べることで終わってしまうことでした。はっぴー田んぼで体験をしても、わが家のお米が欲しいという要望があまりなかったからです。せっかく農薬を使わずに稲を育てる体験をしているのに、それが日常食べるお米とつながらないことをどうにかできないかと、いつも思ってきました。農作業体験が日常の食卓とつながらなければ、稲のいのちが種=お米という形で私たちのいのちとつながっていることを実感することにはつながりませんし、農薬が子どもたちの発育に影響を与えている可能性を医師や研究者たちが指摘し、警告しているからです。

おにぎり米プロジェクト

 今年わが家では預かる田んぼが増えたこと、そして森のようちえんと関わって10年目の節目を迎えたということで一つの新たな取り組みを思いつきました。「おにぎり米プロジェクト」と名付けました。「森のようちえんはっぴー」では、毎日子どもたちのお昼ご飯は、各家庭で用意したおにぎりを食べます。毎日食べるおにぎりに必要なお米を自ら栽培と収穫作業に参加しながら得ることができたら、何を感じるだろうか。それを実際にやってみて、確かめてみたいと思ったのです。10aの田んぼ(写真)で行っているこのプロジェクトは次のようなものです。


 今回参加してくださったのは、森のようちえんはっぴーに通っている子どもたちと職員合わせて18家庭でした。育てるのは、わが家で自家採種してきた「ひとめぼれ」で、苗づくりの段階から農薬を全く使わず、収穫ははざ掛けで天日干しします。田ごしらえから苗づくり田植えまでの作業、畔草刈り、水管理といった日常作業はやぎ農園が負担します。そして、田植え後の補植、次に行うチェーン除草、さらに除草機による中耕作業、そして最後に手で行う草取り、稲刈り、はざ掛け、脱穀、わらの片づけといった作業は、参加者のうち農作業に参加できる方々にやっていただきます。この田んぼでわが家のやり方(無肥料、稲わらだけをすき込む)で収穫できる見込みのお米300~360キロのうち、一部は森のようちえんで月に1回ほど行っている野外調理の時に使います。そして、その他のお米を参加者の皆様で分けていただきます。ただし、仕事を持っているなどで農作業に参加できない父母や、保育に携わっている職員の方々もいるため、農作業に参加した家庭にはその回数に応じて優先配分し、その残りを参加者皆で平等に分けることにしています。このようにしたことで、農作業に参加される方も、子どもに食べさせたいのだけれど仕事があって農作業には参加できないという方も、不公平感なく食べていただけると思います。事前アンケートによると、農作業に参加するが有機農産物を食べたことがないという家庭もありました。

 参加者の皆様には、この田んぼを耕作するのに必要な水利費のみ負担していただきます。お米の代金はいただきません。その代わりに、プロジェクトが始まる前の事前アンケートと、お米を収穫し終わって実際にそのお米を食べた後の事後アンケートにご協力いただきます。わが家の収入にはつながらずボランティア活動になりますが、本来農薬を使わないお米を一番必要とする育ち盛りの子どもたちにどうしたら食べてもらえるのかということを具体的に考えるための手がかりを得るための実証実験としてご提案させていただきました。

 わが家は、森のようちえんはっぴー代表の沼倉幸子さんご夫妻には特に稲刈りの時などにずいぶん助けていただきましたし、現在はっぴーに通っていたり卒園した子どもたちの母親たちとの関りがだんだん広がってきて、いろいろな面でとても助けられています。そのようなこともあって、感謝もしていますし、森のようちえんはっぴーがこれからさらに発展し続いていくよう願っていることも、今回のプロジェクトをご提案した理由です。

森のようちえん+有機給食+給食のための参加型自給農園という構想

 「森のようちえん」というのは、園舎の中ではなく自然の中での野外活動を通して子どもたちの生きる力を育み子ども同士の育ち合いを見守るという幼児教育の場で、全国各地で独自の取り組みが広がっています。子どもを持つ親たちの中には、森のようちえんの存在を移住の目的として選ぶ場合も少なくないようです。中には移住して森のようちえんを設立してしまう方さえいます。長野県佐久穂町にある森のようちえんちいろばがまさにそれで、今年の春に認定こども園として認可されると同時に有機給食が始まりました。その有機給食が始まるきっかけとなったのは、その地で新規就農して35年になる有機農家・織座農園の窪川典子さんとの出会いでした。窪川さんは、わが家の大先輩ですが、親しい友人でもあります。そんな実例もあるため、ここ南房総でも森のようちえん+有機給食という取り組みができないだろうかと考えています。

 有機給食についてもう一つ考えていることは、有機食材を近隣の農家から購入するだけではなく、親たちがお米や野菜の栽培に参加して給食で子どもたちの食べるものをつくるようにすれば経済的な負担が減るだけでなく、きっと新たな魅力として発信できるのではないかということです。なぜかというと、今都市部では民間企業が運営する「○○ファーム」や「○○畑」などの貸農園が大盛況だということで、年間10万円ほどかかっても希望者がどんどん増えているという話を最近近くに移住してこられた方から聞いたからです。子育ての環境を考えて移住したいという人たちの中には、そのように貸農園や市民農園を求めている人たちも少なからずいるはずだと思いますし、森のようちえんはっぴーに子どもを預けている母親たちとの懇談会でも、子どもたちと一緒に過ごせる農園が欲しいといった意見がいくつか出ていました。

 今、学校給食の食材を有機のものに替えてほしいという声は全国各地で広がっていて、千葉県いすみ市での全量地元産の有機米を使うという取り組みは注目を集めています。今年5月に農水省が今後の施策の方針として示し、このたび政府の基本方針にも盛り込まれた「みどりの食料システム戦略」の中で有機農業の推進をはっきり打ち出していることからも、学校給食の有機化は少しずつ広がってゆく可能性を感じます。それでも、学校給食という自治体ごとの大きな仕組みを変えてゆくのは、いろいろな既得権益や利害関係もあって簡単でないことは確かです。

 一方、わが家が神奈川県内にある複数の民間保育園の給食用のお米を毎月お届けしているように、民間での有機給食への取り組みは比較的自由度があって始めやすいものです。有機農業の歴史が長いここ南房総で、森のようちえん+有機給食+給食のための参加型自給農園という新たな取り組みができれば、きっと移り住みたいと思う人たちが増えるに違いないと、私は想像しています。これは私が勝手に考えた構想で、森のようちえんに関わる父母や職員の皆様の強い願いがなければ始まりませんし、有機給食にはこの土地でとれる旬の食材を使った献立を柔軟に考えることができる栄養士さんが、給食のための参加型自給農園には土づくりや農場整備などをする管理する人が欠かせないのですが、実現不可能なことではないと思っています。いかがでしょうか、悪くないとは思いませんか?

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