時代の追い風を感じる年の瀬

今年は春からコロナウィルスの影響によって、予定されていたお米の行く先が一部減って困ってしまったり、今まで当たり前に続けてきた行事ができなくなるなど、わが家も様々な影響を受けました。コロナ禍により世界が様々な点で大きく変わり始めているわけですが、わが家の暮らす農村でも時代の変わり目に来ていることを感じる出来事がありました。

地区内の田んぼの耕作依頼を受ける

 同じ地区内の地主さんから、耕作していた方がやめることになったので、お宅で引き受けてもらえないだろうかという相談を受けたのです。2軒から合わせて田んぼ6枚、面積にして1町1反(110a)にもなります。地域の農業の中心的存在として長年活躍してこられた先輩方も70代後半になり、少しずつ規模を縮小し始めるようになったのです。周辺の市町を合わせた「安房(あわ)」と呼ばれるこの地域で、この5年間に農業経営体(農家と農業法人)の数が22.5%も減ったという報道が先日ありました。この傾向は、わが家のある地区でも今後ますます進みそうです。わが家がこれ以上耕作面積を増やすことなどできるだろうかと悩んだ末、引き受けることにしました。それは、いろいろな考えがあってのことです。

 まず何といっても、お米へのご要望に応えきれなくなってきたことです。3年前にも田んぼが一気に増えるということがありました。そのときには、果たして増えた分のお米が欲しいという方を確保できるのだろうかという心配をしましたが、いつの間にか予約で一杯になるという状態にまでなってきました。そして、今年のように収穫量が少なくなると、一部お断りせざるを得ないということになってしまい、心苦しさを感じていました。

 先日、こんなことがありました。お知り合いからのご紹介でわが家のお米を食べた方から、今年の分がないのだったら来年収穫分を80kg予約したいというお申し込みをいただいたのです。このようにわが家のお米を欲しいと言ってくださる方はこれからも増えていくに違いないという手応えを感じています。このことは、これから有機農業に携わってみたいという若い人が来たときに、稲作を一つの柱にしていくことを可能にするためにも大事なことです。新たなご要望に応えられる条件をつくっていけば、就農後の道筋を具体的に示すことができるからです。

田んぼに関わる人を減らすのではなく、増やしてゆく

 現在は、米価が下がっているのに高性能の大型機械を持たなければできないという方向にどんどん進んでいます。高齢化で耕作できなくなる人が急増しているだけではなく、自分で機械を買ったとしても規模がかなりないと収支は赤字になってしまうので機械を持っている人に頼らざるを得ない農家も多いという状況だからです。しかもお米の消費量は年々減っていて、コメ余りの状況だということで価格が下がり、来年はさらに在庫過剰になる恐れがあるとして、農業の現場では大騒ぎになっています。

 このような状況なので、行政も新規就農者に稲作は勧めませんし、多額の資金を必要とするのでは親元就農などの条件に恵まれていなければ無理でしょう。稲作はごく一部の人だけが参入できる分野になってしまいます。しかし一方では、確かなお米を求めている人が少なくないことも事実で、そのおかげでわが家も心配なく暮らせるようになってきました。

 わが家のように、ただ農薬や肥料を使わないだけでなく収穫・乾燥や貯蔵にまでこだわった農家はあまり多くないと思います。自然乾燥ですから、はざ掛けに使う竹を伐ったり、天候に大きく左右されるという怖さもあります。しかし、大型の機械を必要しないので、新規就農者でも無理なく稲作に取り組むことができます。耕作する田んぼが広がることは、それを現場から発信するためにもいい機会だとも考えました。

 さらに、地域に農薬を使わない田んぼ、はざ掛けの田んぼが増えることは、地域の環境や景観を良くすることだという思いもあります。地主さんから相談を受けたということは、わが家の仕事ぶりが地域で認められたということでもあり、その信用は今後につながる大切なことだと思っています。

 田んぼの面積を増やすとなると、普通は「いよいよコンバインを導入して作業を効率化するのだろう」と思われるでしょうが、わが家はあくまでも「はざ掛け天日干し」にこだわり続けることを前提にしています。より多くの人に田んぼの作業に参加していただき、田んぼのにぎわいをい取り戻しながら、このようにして育て、収穫されたお米を食べることを楽しみにする人を増やしていくとともに、このような方法での稲作ならできるかもしれないと自信を持つ新規就農者を増やしていきたいとも考えています。はざ掛けに使う竹は毎年秋から冬に伐りだし確保していますが、それは地域の里山整備・保全活動でもあります。そのような活動に関心のある人たちも巻き込みたいと思います。

 いきなり面積が増えるのでかなり思い切った挑戦で、やってみなければわかりませんが、きっと興味をもって参加してくださる方や賛同して協力してくださる方が増えていくだろうという希望を持っています。

農業は「生産性」では語れない

 わが家では以前から研修生を積極的に受け入れるために、南房総市の認定研修機関として登録してきました。そしてこれまでに2人受け入れ、この土地に定住し就農してくれることを願いながら研修を行ってきましたが、残念ながらどちらも研修期間が終わらないうちに転居するということになってしまいました。

 研修生の公募はしていても、なかなか問い合わせも来ない状況が続いたため、今年の夏ごろからどのようにしていったらいいものかと、いろいろな情報を集めながら検討してきました。私たちが就農を考えたころとは経済状況も違うので、貯えのない若い人が研修生活に入るのは難しいのかもしれないと考え、一時は正社員として雇用することが可能かどうかも時間をかけて検討してみました。しかし、わが家の規模と売上では難しいことがわかりました。雇用するとなると、それを続けるためにお金を稼ぐことをいつも考えなければならないわけで、これまでのわが家の暮らし方とは違う世界に足を踏み入れることになります。こうして初めて眠れなくなるほど悩んだ時期もありました。しかし、悩んだ末にたどり着いた考えは、「開き直ろう」ということでした。

 今、農業の世界でも、機械化、大規模化、法人化が盛んに叫ばれ、少ない人手でよりたくさんの仕事をするために「生産性」を高めることが求められています。しかし、農業の世界に「生産性」ということばはそぐわないということを再認識しています。

「生きるための農業」の強み

 わが家の夫婦で得た農業所得を単純に労働時間で割った時給を計算してみると、1人当たりの時給は県の最低賃金の半分以下ということになります。皆さんは、「そんなの仕事じゃない」と思うでしょうか?仕事とは、同じ時間で少しでも多くのお金を稼ぐことなのでしょうか?農家の仕事について考えると、例えば産地のニンジン専業農家、施設栽培のトマト専業農家などでは、農作業は栽培して収穫、出荷し、お金を稼ぐための仕事がすべてかもしれません。でも、農家は本来食べものの自給を基本として暮らしていました。

 1960年代に始まる農業近代化によって農作業はお金を稼ぐためのものということにされてしまったのだと考えていますが、わが家の場合は出荷する農作物はすべて自分たちが食べものでもあるので、農作業時間の一部は自給のためのものです。しかも、その労働の結果として食べものという生産物を得ています。ですから、わが家の労働時間の中には、自分

たちが生きるのに必要な食べものを生み出すしごとも含まれているのです。時には田畑での近所の農家との立ち話の時間も。だからこそ時給に換算すればたかが知れていても心穏やかに暮らすことができる、それが自給を基本に暮らす本来の農家の強みだと思います。

わが家が先輩方から学んできた「有機農業」とは、そのように自給を基本とした農業のことでした。先ほど開き直ったと書きましたが、改めてわが家がこれからも大切にしていきたいことは、「儲かる」農業ではなく、食べものに不自由することなく、周囲の人たちとの関係も豊かに暮らすことを大事にした「生きるための」農業なのだということを強く思いました。

時代がわが家の歩む方向へ寄ってきた

この数十年間、日本はお金さえあれば何でもできる、生きられると思い込まされた社会をつくりだしてきました。ところが、コロナ禍によって収入が断たれた途端に食と住を失ってしまう人たちが続出するという事態となり、お金だけに頼ることの危うさを肌で感じる人が急激に増えたのではないかと推測します。最近は農業体験への関心がとても高まっているという情報をたびたび聞くようになりました。それも、お金という実体のないものへ依存することへの不安、そしてこの情報化社会の中で日常では得にくくなってしまった生きている実感への欲求を、多くの人が抱き始めたからではないかと感じています。各国の経済力の関係も変化してきていて、日本が経済大国だとあぐらをかいていられるときも長くはないと思います。都市から農村へという人の流れは、これからますます大きくなっていくことでしょう。手間がかかる有機農業、はざ掛け稲作にこだわり、時代の流れに逆行してきたかのようなわが家の歩みでしたが、これからは多くの人がわが家のような生き方を求める時代になってゆく予感がしています。 

 そういうわけで、私は未来への展望を語れない農村の現状に身を置いていながらも、楽観的に考えられるのです。来年は、そのような世の流れとわが家の暮らしが重なってゆくことを願いながら、具体的な取り組みを進めていきたいと思います。

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 無事に年を越せることも、たくさんの方々に支えていただいたからだと感謝しています。今年もやぎ農園ブログをお読みいただき、ありがとうございました。良いお年をお迎えください。

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