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『小さき声のカノン』~ドキュメンタリ―映画を観て考えたこと

『小さき声のカノン』は、ドキュメンタリ―映画監督・鎌仲ひとみさんの2014年に公開された作品です。いつもわが家がお世話になっている方からそのDVDをずっとお借りしていたのですが、なかなか落ち着いて観ることができませんでした。昨日は、大雨で農作業ができなくなったので、ゆっくり観ることができました。


 この映画は、福島県内で被曝したわが子の健康を何とかして守ろうとする母親たちの思いと現状、1986年に旧ソ連のチェルノブイリ原発事故によって大きな汚染を受けたベラルーシ共和国の子どもたちへの影響とその後、そして福島原発事故の被害を受けた関東の子どもたちのための「保養」を続けているNPOという3つの視点から描かれていて、放射能汚染に晒された子どもたちに私たちはどう向き合っていくのかを問いかけられるものでした。


放射能の影響を直視するベラルーシ共和国

 ベラルーシ共和国で事故当時子どもだった人の甲状腺がんが増えたピークはチェルノブイリ原発事故から10年後、未成年では15年後、成人ではその後どんどん増え続けているそうです。ベラルーシでは、原発事故当時、旧ソ連政府が30キロ圏内の住民13万5千人を即時避難させました。そして汚染のひどい地域の村々は1990年から移住を強制したため、旧ソ連邦内の458の村が無人になりました。百姓として生きている私は、村を捨てざるを得なかった人たちの無念な気持ちを察すると複雑ではありますが、住民のいのちを第一に避難と移住をさせた旧ソ連政府の方が、福島原発事故当時そのような措置を取らなかった民主党政権、そして長年の原発推進政策の結果だったという責任を認めず、むしろ元の居住地への帰還を推奨しようとする今の政権与党よりもずっとまともな政策をとったものだと思いました。日本の医療支援チームとともに甲状腺がん検診システムをつくり、治療と研究に当たる責任者であるデミッチク医師はこう言います。「甲状腺検診のシステムを作り上げたのは日本の方々なのに、なぜ今さら日本の方に質問されるのか理解できません。もうずいぶん昔、90年代の初め頃のことでしたよ」

 ベラルーシでは国営の保養施設が14か所あり、年間に4万5千人の子どもたちを「保養」させています。「保養」というのは、放射能の影響の少ない場所で一定の期間食べものや生活リズムなどに気を付けながら過ごすことで体内の放射能を減らすための取り組みです。対象となるのは、「年間1ミリシーベルト以上被ばくする地域に住む3歳から17歳までの子どもで、1年あたり1~2回、1回に24日間の保養を授業を継続しながら受けられるというのです。

放射能の影響を隠そうとする福島県=日本国

 一方、福島県ではどうかというと、2014年6月までに小児甲状腺がんと確認されたのは、30万人中103人でした。2008年の調査では0人だったというのですから、素人がこの数字を見ても原発事故の影響が出ているはずだと考えられます。ところが、「専門家」と言われる人たちには違って見えるようです。福島県県民健康管理調査検討委員会の星座長は、「想定される範囲だったと理解している。放射線による影響は、これまでの知見から見ると考えにくい」と発言し、その根拠を問われても具体的な説明をすることができませんでした。このような福島県の態度は、ベラルーシ共和国政府の態度とは真逆で、国家の責任を認めないばかりか、住民の健康被害を個人の問題として処理して原発の問題を明らかにされないように隠ぺいしようとしているものだと強く感じました。


子どもたちの内部被ばくを軽減する方法

 このような日本の現状ですが、各地で民間の団体が子どもたちの保養に取り組んでいます。その一つである「NPO法人チェルノブイリへのかけはし」の取り組みが紹介されました。このNPOはこれまでにベラルーシの子どもたちの保養を受け入れてきました。そして福島原発事故後は、見落とされがちな関東圏の汚染地域に住む子どもたちを受け入れています。酵素玄米を中心とした、質(家畜のえさや農薬の使用など)にも十分に気を使った食材でつくる食事を1か月食べ続けさせると同時に規則正しい生活リズムを徹底管理することによって子どもたちの体内に取り込まれた放射性物質を排出させ、基礎代謝を活発にすることで抵抗力を高めることができるそうです。その1か月の間に、二十数ベクレルあった尿中の放射能は検出限界値以下にまで減らすことができるのだそうです。このNPOの野呂さんの悲しげな、そして鋭い言葉が心に突き刺さります。「捨てられたんだよね、私たちは。勝手に生きれば、勝手に死ねばと。まともな国に戻さないといけないね。それ以外に、子どもたちを助ける道はないんじゃないの」

観終わって考えたこと 

 この映画を観て、2011年の福島第一原発事故から9年が過ぎ、この間東京オリンピック開催騒ぎ、そしてわが家も被害を受けた続発する甚大な自然災害、さらにはコロナウィルスによる社会全体への影響などにより、放射能による汚染の影響を強く受け続けながら暮らす人たちのこと、子どもたちへの健康被害の広がりのことなどが忘れ去られていることを、自戒の気持ちも合わせて強く感じました。

 放射能だけでなく、農薬などの化学物質汚染によってアレルギーになるなど健康を害している人は多いことでしょうし、化学物質による汚染が子どもたちの間で増え続けている発達障害の原因になっていると指摘する研究者たちもいることから、わが家のような有機農家の育てた作物が必要とされ、お役に立つことがこれからますます多くなってゆくのだろうと思いました。食べ続けることの大切さが、広く意識されるようになるといいのですが。これ以上健康を損なわないために。


(食べものの質にこだわった食事を一定期間取りながら過ごすことが体内の農薬汚染を減らすのに有効であることは、福島県内のNPO法人「福島県 有機農業ネットワーク」が北海道大学の池中良徳教授の協力を得て行った調査で明らかになっています。有機食材を5日間食べ続けただけでも尿中のネオニコチノイド系農薬の濃度は約半分、1か月続ければ1割以下になるというのです。ですから、食生活を重視した保養の有効性は確かだと思います。)

 

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